限られた土地資源が高騰し、相続税の影響もあってどんどん細かく分断され、それでも無理やり所有され、あげくのはてにローンした額よりはるかに目減りしてこげついた。
もっと柔らかく土地を利用することができなかったから、所有された小さな土地の上で、戸建てでも、マンションでも、「間取り」の計画こそが家づくりのように思われてしまった。
住宅産業も、あたかも「間取り」だけが唯一の選択肢であるように、お客さんに住宅を売り込ゆく。
日本でも、土地の所有にはこだわらないが、家づくりにはこだわる施主をもっとたくさん育てて、優良な戸建て住宅を増やすとよい。
優良な新築戸建てや新築コーポラティブハウスが供給されれば、家族向けの戸建てやコーポラティブハウスの世界に、優良な中古物件や賃貸物件が自然に増えてくる。
そうすれば結果的に土地の所有競争が沈静化し、地価が健全なレベルに収敏して「家づくりは、人生そのものの表現手段だ」そうして初めて、土地の所有より、自分が住む家のクオリティに投資する「お宅通」が現れる。
また、「土地所有」呪縛とともに、もうひとつの呪縛からも自由になっておきたいと思う。
それは、「家づくり」は人生の目標ではない、ということだ。
そんなバカなことはあり得ない。
国にとって、あるいは会社にとっては、ビジネスマンが「家を建てることが人生の目標だ」と勘違いして働きつづけてくれたほうが、得なのかもしれない。
間取りは、1000以上ある表現アイテム、家づくりで選択しなければならない必須アイテムのほんのひとつの項目にすぎない。
間取りが人生を決めることはない。
でも、毎日会社の行き帰りに目にする自分の家の玄関ドアのデザインが、人生に対する考え方を左右することは、あるかもしれない。
間取りが人生を表現することはない。
でも、トイレや洗面所の洗面ボールのありようが、どんなふうにオリジナルなのかということが、その人の価値観を感じさせることはある。
間取りが家づくりの土台ではない。
なぜなら、基礎の構造や断熱手法や空調技術のほうが、長期にわたってよっぽど快適な暮らしを保証するからだ。
かくいう私も、すっかり「アパートっ子」として育ったから、家というものは、和室と板の間とキッチンとトイレと風呂の組み合わせのことだと勘違いしていた節がある。
基本設計に入ってからも、この呪縛からなかなか抜けられなかった。
でも、いま私は、間取りについては、「食事の場所」をどこにするのかを決めれば、あとは自もある。
あとは、あまり用途を決めたり、作りこんだりせずに、柔らかくしておくこと。
そうすれば、建ったあとから、よりクリエイティブに、家族とともに「家づくり」を楽しむことができる。
こうして私は、我が家の間取りを、1階はズドーンとダイニングを中心としたワンルームとして作り、2階はとりあえず4つに分けておくシンプルな構えとした。
「夫婦の主寝室」はない。
あいかわらず和室に5人で寝ている。
「主人専用の書斎」はない。
2mの板を3つのファイル・キャビネットの上に渡して、妻と共用の仕事場にしている。
私のいない問に息子が宿題をしたり、コンピュータで遊んだりすること自然に決まっていくものだと考えている。
その他にキーになることがあるとすれば、階段と玄関の位置関係、それに、キッチンと風呂と洗濯をするところ(洗濯機の場所と干す場所)の位置関係という、3つくらいのものだろう。
もちろん敷地のありようによっては「食事の場所」を2階にもってくることもある。
「3人の子のための3つの子ども部屋」もない。
将来も作らない。
ただブースで分けてやるつもりだ。
いまは廊下から一扉もないワンルームで、子どもたちがどんなふうに友達と遊び、どんなふうに泣き、どんなふうに隠れるのか、ようすをみている。
「家づくり」の世界には、やってみなければわからないこと、住んでみなければはっきりしないこと、さらに時間が経たなければ結論が出ないことが、山ほどある。
ビジネスマンの私にとっては、すぐに結論を出せないと悔しいし、そうでなければ自信やプライドが揺らいでいく。
しかし実際、こと生活の局面での自分の読み違いの多さには、正直いってだから、あまり、作りこまないほうがよさそうだ。
我が家の基本設計では、最終段階にいたってなるべく作りこまないで放っておくことが基本方針になった。
私自身の住生活は「長屋」からスタートした。
父が裁判所に勤める公務員だったから、生まれてから2歳まで暮らしたのは長屋のような公務員宿舎だった。
昭和30年代前半の話である。
4世帯が暮らす2階建ての木造アパートで、1世帯が6畳二間と台所。
風呂は風呂屋に行っていた。
毎日の生活についてはほとんど記憶にないのだが、食事はちゃぶ台か座卓を畳の部屋の真ん中に出して食べていた。
母の話によると、赤ん坊のころ、窓の手すりのところで遊んでいて、ちょっと目を離したすきに庭に転落したことがあるのだという。
「風に飛ばされたんじゃあないかしら」と母は笑うが、住宅地にはコンクリートなどまだ珍しかったし、そこらじゅう雑草だらけだったから、1階の窓から転落したくらいでは、大したことにはならなかった。
その後、公務員のアパートにもサイズの大きいものができた。
二度目に引っ越したのは、階段をはさんで左右に分かれていた最初のモデル住戸の壁をぶち抜いてひとつにしたものだった。
「アパート」に引っ越した。
アパートの側面に誇らしげにRCという記号と番号が付いてやつだ。
実は、レインフォースト・コンクリート(鉄筋コンクリートづくり)の頭文字にするうちは最上階の4階だったから、ベランダから西に富士山がくっきりと見えた。
間取りは6畳と4畳半の畳の部屋、それに6畳大のダイニングキッチン。
なんといっても特筆すべきは、風呂が自宅にやってきたことだ。
風呂場の内部でガスに火をつけて焚く、お釜の延長線という印象の木製の風呂だった。
入浴中に誤って煙突の部分に触って火傷をしたこともある。
各住戸の大きさや間取りは、すべて統一されていてここに父と母と私と祖母、それに父の一番下の妹の5人で暮らした。
ゴミは各階のドアの脇にある共用のダストシュートから1階のゴミ置き場に直行する。
新聞やダンボールなど燃えるゴミは、各アパートの裏に設置された共用の焼却炉で各自が燃やしていた。
まだまだゴミが少なかったころの話である。
片方のドアが勝手口のように使えたので、もう会社に入社していて夜中に帰ることが多かった私にとって、両親に気付かれずに自分の部屋に入れるのがありがたかった。
思い返してみると、公務員住宅として建てられたアパートに住んでいる間は、キッチンはみな南側に面していた。
日中明るいほうで母や祖母は台所仕事をし、ベランダで洗濯をし、そのまま洗濯物を干しながら、アパートとアパートの問にはさまれた児童公園で遊ぶ我が子の様子を自然に眺めることができた。
「ご飯よ−、帰ってらっしや−い」という母の声が、いまでも記憶の中でこだまする。
1980年には、両親が購入した「マンション」に一緒に移り住んで、その後加代後半になって、勝関にある、会社が借り上げた社宅扱いの賃貸マンションで一人暮らしをはじめた。
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